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建築家(1級建築士)米村和夫が設計した注文住宅を紹介

円形の階段室がある家(箱根宮城野)

自然環境と建築物が共存する非日常空間の別荘

建築主は、絵を描くことが趣味の奥様のために「絵を存分に描ける別荘をつくりたい」という思いがあり、アトリエ付きの住宅を希望していました。
そこで、1階部分を広々としたアトリエにして、キッチンや寝室などの居住スペースは2階に配置することになりました。

この別荘を設計するにあたっては、以下のテーマがありました。
・敷地の形状が半円形の傾斜地なので、建物にも円形の形状をどこかに取り入れたい。
・もともと山林なので、敷地内には20〜30mの高木がランダムに生えている。樹木をできるだけ残しながら建物を配置したい。
・生活上の高低差は最小限に(バリアフリー)。
・作業に集中するスペースであるアトリエは、住居部分と明確に分離しつつも、緩やかにつなげたい。
・各室内はコンパクトにしたいが、つながりを持たせたい。
・各室内からの眺望を重視したい。
・奥様が化学物質に敏感なので、天然の素材や塗料を使いたい。

既存の樹木をなるべく切らず、バリアフリーを実現するために考えたのが、凹凸のある建物のデザインです。さらに、階段室部分の壁を円形にしたことで、個性的な雰囲気のある別荘になりました。

1階はアトリエの出入り口と住居の出入り口を別々に設けていますが、2つの出入り口はポーチ(玄関前の屋根のあるスペース)で緩やかにつながっています。ポーチの空間が敷地の南北を分ける軸線となり、また、風景を切り取る「抜け」にもなるので、心地よさが生まれました。
敷地内の木や、背後の森の風景を生活に取り込めるように、大小さまざまな開口部を設けています。どこから見ても、同じ風景はありません。

円形の階段室部分は、通し柱と梁で軸組を強化し、杉板で壁面を固めた強固な構造にしています。
階段室部分の外壁はモルタルで、リシン吹付による仕上げを採用し、自然環境の中に違和感なく溶け込める外観にしました。
内部の階段には屋久島の杉材を使い、木の暖かみを感じられるようにしています。

2階にはDOVRE(ドブレ)というベルギー製の薪ストーブを設置しました。
別荘を建てようとする方の多くが憧れる薪ストーブは、火の揺らめきが心を落ち着かせてくれるだけでなく、実際に暖房器具として活躍します。薪が燃え続けている間は暖かいので、夜間にお手洗いに行く際にも寒さの心配がありません。真冬に別荘を利用したいと考えている方にはうってつけです。
ただし、薪ストーブを安全に使うためには可燃物(木造の壁や家具など)との間に一定の距離を設けて、効率的な給気や排気(煙突)を計画する必要があります。当事務所ではこれまでにも「芦ノ湖高原の家」などの別荘プロジェクトを多数手がけ、薪ストーブを設置した実績があります。そのノウハウを生かし、今回も安全かつおしゃれな薪ストーブのある建築を実現しました。

別荘建築としては「新しい非日常空間」を提案し、生活スタイルとしては「仕事や趣味の空間」と「居住空間」という「2つの機能を持つ住宅」を模索する一つの解答事例になった、思い入れのある建築です。

CATEGORIES

別荘地, 崖地、傾斜地、斜面地, 神奈川県